「Oslo Freedom Forum」という、人権に関する国際会議があります。
その中から、北朝鮮を亡命したYeonmi Parkさんのスピーチをピックアップします。
「北朝鮮で生きる」という事がどういう事なのか。
「北朝鮮から亡命する」という事がどれほど覚悟の要る事なのか。
非常によく伝わってくる、心揺さぶられるスピーチです。
1.映画「タイタニック」の監督はなぜ処刑されないの?
When I was growing up in North Korea,
I never saw anything about love stories between men and women.
There is no books, no songs, no press, no movies about love stories.
There is no Romeo and Juliet.
私は北朝鮮で育ちました。
私は男女の間のラブストーリーについて、何も見た事はありませんでした。
ラブストーリーに関する本も、歌も、雑誌も、映画もありません。
ロミオとジュリエットは北朝鮮には存在していません。
Every story was propaganda to brainwash us about Kim dictators.
A turning point in my life was when I saw the movie “Titanic”.
It was fascinating to me that anyone would make a movie out of such a shameful story.
I was wondering if the directors and actors would be killed.
By the way, I’m really glad that DiCaprio is alive.
全ての物語はプロパガンダであり、独裁者である「キム」総裁について私たちを洗脳する事を目的としていました。
私の人生の転換点は、映画「タイタニック」を見た時でした。
それはとても魅力的でした。こんなに恥ずかしい物語について映画を作る人たちがいる、という事が。
こんな映画を撮って、監督と俳優は殺されないのだろうか?と思っていました。
ところで、ディカプリオが殺されていなくて、私は本当にうれしかったです。
Actually, that is what would happen to anyone who would make a movie about such a shameful story in North Korea.
How could they release such a movie?
I was so curious.
My curiosity didn’t end there.
実際、北朝鮮でタイタニックのような「恥ずべき」映画を撮れば、殺される可能性は高いです。
どうやって監督たちはこんな映画を公開できたのかしら?
非常に気になっていました。
私の好奇心はそこで終わりませんでした。
When I was growing up in North Korea,
the regime told us that dying for the regime was
the most honorable thing that anyone could do.
When we were young, my sister and I saw a movie showing how beautiful it could be to die for the regime.
We were inspired by it, and we pledged we would be willing to die,
if necessary, for the Kims.
私は北朝鮮で育ちました。
政府は私たちに、政府のために死ぬことは最も名誉のある行為なのだと教えました。
若かった時、私は姉妹と一緒に映画を見ました。それは、政府のために死ぬことがどれほど美しい事なのか、を描いた映画でした。
私たちはその映画に感動し、必要とあらば、政府のために喜んで死のうと誓いました。
キム一族のために。
When I was growing up in North Korea,
the only story I heard about the outside world was,
how bad it was, and how lucky we were to be in North Korea.
私は北朝鮮で育ちました。
外の世界について聞いた話は、
外がひどい世界で、北朝鮮で暮らしている私たちはとても幸運なのだという話でした。
The North Korean regime always tried to convince me to do something for it,
to die for it.
Cotrolling what we sing, say, read, listen to, or think what we want.
北朝鮮の政府は、常に私が政府のために生き、政府のために死ぬように刷り込みました。
私が歌う歌や、発言内容や、読む本や、聴く音楽や、何を欲しいのかについて、コントロールしようとしていました。
But I realized that Titanic showed me a human story about love, beauty, humanity.
It showed me that people could value something for themselves.
I was able to connect with the film.
It gave me a taste of freedom.
でも私は気付いたのです。タイタニックが教えてくれました。愛や、美しさや、人間性についての物語を。
人々は、自分自身で物事の価値を決めることができると。
私はその映画と一体感を感じることができました。
タイタニックは、自由の感覚を与えてくれたのです。
It wasn’t propaganda, but a story about people dying for love.
A man, willing to die for a woman.
It changed my thinking.
It changed the way I saw the regime and their endless propaganda.
タイタニックはプロパガンダではなく、愛のために死を選ぶ人々の話でした。
愛する女性のために死を厭わない男性。
私は考え方が変わりました。
この映画は、政府や、終わりなきプロパガンダに対する私の考え方を変えてくれました。
Titanic made me realize that I was controlled by the regime.
I was not aware, like a fish is not aware of water.
North Koreans are abducted at birth, so they don’t know the concept of freedom or human rights.
They don’t know that they are slaves.
タイタニックは、私が政府によってコントロールされていた事に気付かせてくれました。
私は、水の中を泳ぐ魚のように、コントロールされている事に気付いていませんでした。
北朝鮮の人々は、生まれながらに誘拐されているようなもので、人権や自由という概念に関して知ることができません。
北朝鮮の人々は、自分たちが奴隷だという事を知りません。
2.「ブラックマーケット世代」が北朝鮮を変える
I’m 21 years old, and there are many changes going on inside North Korea today.
And, it’s my generation often called “jangmadang,” or “black market generation.”
It will make change permanent.
私は21歳ですが、現在の北朝鮮では色々な変化が起きています。
私たちの世代は朝鮮語で「ジャンマダン」、つまり「ブラックマーケット世代」と呼ばれています。
「ブラックマーケット世代」は北朝鮮を変えるでしょう。
North Korea’s black market generation has 3 characteristics.
The first characteristic of our black market generation is,
it has no devotion to the Kim dynasty.
I was born in 1993, and Kim Il-Sung, the country’s founder, he died in 1994.
And I was brainwashed to glorify him, and his national self-reliant economic system.
But, I have no actual memory of him.
北朝鮮の「ブラックマーケット世代」の特徴は三つあります。
一つは、キム帝国に対する献身的姿勢を持っていないという点です。
私は1993年生まれですが、建国者のキム・イルソンは1994年に死んでいます。
私は彼と、自給型経済の彼の国を褒め称えるように洗脳されていました。
でも実際のところ、彼の記憶が何もないのです。
The second is, it has had wide access to outside media and information.
The private market provided us with more that food and clothing.
It provided us DVDs with movies like Titanic, and USBs with Wikipedia.
二つ目の特徴は、私たちの世代は外部のメディアや情報に幅広く接触してきた、という点です。
民間の市場は、食べ物や衣服以上のものを提供してくれました。
タイタニックのような映画のDVDや、ウィキペディアが入った電子機器などです。
The third is, we are capitalistic and individualistic.
We grew up with markets.
We experienced selling and buying.
三つ目の特徴は、私たちは資本主義的で、個人主義的だという点です。
私たちは市場とともに育ってきました。
売買を経験してきました。
3.「市場取引」は、人々に自分の頭で考えるよう促す
I still remember when I was 7 years old, my father told me,
“As long as you know how to count money, then you don’t have to learn anything from school.”
When I was 12, I made my first business deal with my mom.
She gave me some start-up cash, and I bought rice vodka, which I bribed the orchard guard,
he allowed me to sell persimmons from that orchard in the market.
With the profit, I bought some candy for my mom.
今でも覚えています。7歳の時、お父さんが私に教えてくれました。
「お金の数え方さえ覚えれば、学校で何も勉強する必要なんてないぞ」って。
12歳の時、私はお母さんと最初の取引をしました。
母は私に事業資金を提供してくれて、そのお金で私はお酒を買い、果樹園の警備員に賄賂を贈りました。
果樹園の柿を市場で売る事を許可してもらうためです。
その利益で、私はお母さんにキャンディを買ってあげることができました。
And I think it’s a very important fact,
Once you start trading for yourself, you start thinking for yourself.
And that’s a big threat to the Kim regime.
私は、それは非常に重要な出来事だと思います。
取引をすると、自分自身で考えるようになります。
キム一族にとって、市場での取引は大きな脅威となります。
(5:00)
This development of market is important, because it undermines the “Songbun” system,
where the regime puts people into strict classes.
When the government is in charge of the social classifications and food distribution,
it always determines who will acquire wealth, and who will starve.
But the private market is removing that from the Kim’s regime’s control.
市場の発展は需要です。「ソンブン」制度(出身成分)を揺るがすことができるからです。
政府は人々を厳格に階級分けします。
政府が階級や食糧分配の決定権を持っている限り、
政府は、誰が裕福になり、誰が飢えるかを決めることができます。
しかし、民間市場のおかげで、キム政権の決定権は着実に減少しています。
4.ゴビ砂漠をさまよい、モンゴル、そして韓国へ
I escaped from North Korea in 2007.
And, I lived as an illegal immigrant in China for more than a year.
After my father passed away in China, my mother and I decided to escape to Mongolia.
Along with 5 people in our team, we walked and crawled across the Gobi Desert.
Evading Chinese police, kidnappers, wild animals, and into Mongolia, we followd the compass.
2007年、私は北朝鮮を脱出しました。
一年以上、中国で不法入国者として暮らしました。
中国で父が亡くなった後、母と私はモンゴルに逃げる事に決めました。
私たちは5人のグループでした。ゴビ砂漠を歩き、這い回りました。
中国の警察、誘拐犯、危険な野生動物から逃れ、コンパスを頼りにモンゴルを目指しました。
When that stopped working, we followed the stars to freedom.
It seemed that, only stars were with us.
Armed with knives, we were ready to kill ourselves, if we were going to be sent back to North Korea.
コンパスが壊れた後は、自由を求め、星を頼りに進みました。
私たちの味方は、あの星たちだけのように思えました。
私たちはナイフを持っていました。北朝鮮に連れ戻されるくらいなら、自らの命を絶つためです。
We begged the Mongolian soldiers who caught us, not to send us back to North Korea.
We wanted to live as humans.
モンゴル軍の兵士に捕まりましたが、北朝鮮に送り返さないてくれるよう、必死で命乞いをしました。
人間として生きたかったのです。
In 2009, I made it to South Korea.
(Sighs)
Even though I escaped, I wasn’t completely free of the regime’s ideology.
I still thought, the Kims had a special power.
I even thought, Kim Jong-il, the North Korean dictator, could read my mind.
I was not free to think.
2009年、韓国にたどり着くことができました。
(ため息)
脱出に成功していたにも関わらず、私は政府の思想から完全に脱却できていませんでした。
キム一族は、超能力を持っていると思っていたのです。
北朝鮮の独裁者キム・ジョンイルは、どんなに遠くからでも私たちの心の中を読むことができる、と私は考えていたのです。
私は自由に考える事ができませんでした。
5.ジョージ・オーウェルの「アニマル・ファーム」の世界
(7:00)
In 2011, having the freedom to read whatever I wanted, I happen to read a book, “Animal Farm.”
It seemed that George Orwell was talking about North Korea.
This book set me free from the emotiinal dictatorship in my head.
It showed me that Kims are dictators, using powers to oppress people.
And that, North Koreans deserve freedom.
2011年、私は自由に本を読む機会があり、たまたま「アニマル・ファーム(動物農場)」という本を手に取りました。
ジョージ・オーウェルは、北朝鮮の事を書いているのではないか、と思いました。
この本のおかげで、私の感情は自由になりました。
この本は、キム一族は独裁者であり、人々を抑圧するために権力を用いているという事を教えてくれました。
だからこそ、北朝鮮の人々は自由になるべきなのです。
I cried all night as I read it, even now I get goose bumps as I read it.
Titanic opened my eyes to see that people can live differently.
And that there is something else out there.
The black market gave me an opprotunity to be exposed to the outside world.
And “Animal Farm” set me free from brainwashing.
その本を読みながら、私は一晩中泣きました。今でも、読むと鳥肌が立ちます。
「タイタニック」は、人は生き方を変えることができると教えてくれました。
外の世界には、私たちの知らない何かがあるという事も。
ブラックマーケットのおかげで、私は外の世界を感じることができました。
「アニマル・ファーム」は、私を洗脳から解放してくれました。
They both symbolize freedom to me.
In North Korea, the regime says they are so strong.
But the reality is, the are so weak.
So they can’t allow other ideas.
「タイタニック」と、「アニマル・ファーム」は、私にとっては自由の象徴です。
北朝鮮では、政府は「自分たちはとても強力だ」と言っています。
でも実際は、彼らは弱いのです。
だから、自分たち以外の思想を許す事ができないのです。
(8:00)
As I read it, and even when I read “Communist Manifesto,”
I thought, “This is freedom.”
The freedom to read opposing ideas.
「アニマル・ファーム」を読んだり、「共産党宣言」を読んだりして、
『これが自由なんだ』と思いました。
異なった考え方を読む自由です。
6.変化は既に始まっている
Lots of people think change in North Korea is impossible.
But they might not realize that huge changes have already happened,
and they are getting bigger and bigger every day.
Before the 1990s, the regime’s control was total.
It was like water that fish cannot feel.
But increasingly, the regime’s propaganda does not match with the reality of people’s lives.
Everyone konws they have to break the rules by operating in markets to survive.
とても多くの人々が、北朝鮮を変える事は不可能だと考えています。
でも、既に大きな変化が起きている事に気付いていないのかもしれません。
変化は、日に日に大きくなっています。
1990年代以前、政府は全てをコントロールしていました。
魚は水に気付く事ができませんでした。
でも徐々に、政府のプロパガンダは人々の現実の暮らしと合わなくなってきています。
人々は皆、生き残るためには市場の力を借りて、政府の支配から脱却しなければいけないと既に知っています。
So since the 1990s, the regime’s structure of oppression has been a lot more obvious and visible to North Koreans.
It’s like a cage that you can run up against, but now people are finding ways to go around that structure,
finding ways to break it and bend it.
That’s why the North Korean regime’s control is unsustainable.
The outside media and information are setting us free.
1990年代以降、政府の抑圧の構造は、北朝鮮の人々にとってハッキリと分かるようになりました。
それはまるで周りを囲んでいる檻のようですが、人々は抜け道や、
壊す方法を見つけ始めています。
だからこそ、北朝鮮の政府のコントロールは持続不可能なのです。
外部のメディアや情報が、私たちを自由にしてくれるのです。
The change that I went through is why I’m optimistic that if you can expose Northe Koreans to the outside world,
we can make a difference.
I hope that we can work together to make something beautiful happen.
私は変化を経験してきました。北朝鮮の人々が外の世界を経験できるよう、皆さんが手助けしてくれると私は考えています。
変化は起こす事ができます。
一緒に、素晴らしい事を起こすことができると信じています。
7.皆さんには力があります
Everyone has the power to help and support North Koreans.
You can help get information inside North Korea and free people’s minds.
Every day, in China, or elsewhere, thousands of refugees are facing the daily terror of deportation.
You can help them escape to freedom.
皆さんは北朝鮮の人々を助け、励ます力を持っています。
北朝鮮の中に情報を送り込み、人々が自由に考えられるよう、手助けすることができます。
毎日、中国でもどこでも、何千もの避難者たちが強制送還の恐怖に怯えています。
皆さんは、彼らが自由になれるよう助ける力を持っています。
When I was crossing the Gobi Desert, scared of dying,
I thought nobody in this world cared.
It seemed that only the stars were with me.
But you have listened to my story.
You have cared.
死の恐怖に怯えながら、ゴビ砂漠を横切っていた時、
この世界で私たちの事を心配してくれている人なんて誰もいない、って思っていました。
一緒にいてくれるのは夜空の星たちだけだって。
でも、皆さんは私の話に耳を傾けてくれました。
皆さんは私を気に掛けてくれました。
Martin Luther King, Jr. Said that,
“Injustice anywhere is a threat to justice everywhere.”
Let’s do what we can to eliminate the injustice of the Kim regime.
Please join me, as you make this global movement to free North Koreans.
Thank you very much.
キング牧師の言葉です。
「世界のどこかで不正が行われている。それは、地球上のあらゆる場所の正義を脅かすものだ。」
キム一族の不正をただすため、私たちは自分たちにできる事をしましょう。
あなたの力を私に貸してください。北朝鮮の人々を解放し、世界的な運動に変えていくために。
どうもありがとうございました。
感想
前半、
と段落の冒頭を統一している箇所がありました。
話者は、オバマ大統領やキング牧師のスピーチを意識しているのかもしれません。
タイタニックを「恥ずべき(shameful)」と表現(わざとでしょうが)するあたりは、北朝鮮の少年少女に対する教育の中身が伺えます。
本来、最も近隣の民主主義国である日本や韓国が、北朝鮮の民主化・解放に力を貸すべきですが、それを期待できないからこの方はノルウェーまで遊説に行っているのでしょう。
拉致問題や沖縄の米軍基地問題など、わたしたち日本人の「周辺」に対する無関心について、考えさせられるスピーチです。